Diary

さくら

2008.04.15

美貴という名前を決めたのは、父さんだった。実はそれは会議を開くまでもなく決まっていたことで、ミキを初めて見た父さんは、ミキそのものの美しさや貴さはもちろん、世界で何より、小さな頃の思い出や、輝ける未来や、華々しい名誉よりも何より大切に思っている女の人が、自分の子供をこの世に誕生させる、しかも家には素晴らしくやんちゃな男の子がふたりも、今か今かと妹の到着を待っているという、そのあまりにも優しく、奇跡的な日常に驚いて、
「なんて美しくて、貴いことだ」
と言い、そして、大きな声で泣いた。その泣き声は男泣きというにはあまりにも無邪気で、まっとうで、病院中に響き渡るそれを聞いた他のおかあさんたちの瞳をじわっと湿らし、まだ見ぬ赤ん坊を起こしてしまったほどだった。
母さんが世界で一番幸せなら、父さんは宇宙で一番幸せな男だった。

コメント (0) »

この記事にはまだコメントがついていません。

コメント RSS トラックバック URL

コメントをどうぞ